もうひとつの
何をしようかいまさらながら迷っているぶろぐ
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Seil

Author:Seil
2009 4/19より復活

健康体ではないものの

頑張って生きてます



裁判員候補年齢にして
精神年齢=14歳病患者

どうしてこんなになるまで
 放っておいたんだ!

みたいな

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重すぎるんです
2006-04-26(Wed) 19:13
というわけで



考え始めたのが、去る2月初旬



実行に移したのが3月初旬



お前サボってんだろと言われそうになるほど時間を経て今は4月下旬




たかが12500文字くらいだろとか言われそうだけどそれだけかかったんです



本文を作ったのは大体2週間くらいですよ



出来た後、推敲に推敲を重ねて添削



削りに削ってやっと25kバイト



というわけで、一部の方にしか価値はわからないかもしれませんが


前々から、構想していた。「こんな話を作ってみたい」という妄想。

を、公開します。少しだけ。



見る覚悟のある人。及び「うはwwだっせwwww」とか思いたい人


は、続きを読むから、どうぞ。


「他人の文章ほどムカつくものはない」とか「稚拙な文章を読むほど私の目は腐っておらぬ」

と、言う人はとっととブラウザの戻るボタン及び閉じるボタンを使用してください。






そんなわけで












彼女が居なくなったのはもう、今から7年前の話だ。























雪深いエルナスの地は夏が短く、長い間雪が溶けない

だから、ここの人達は短い夏を楽しむ。

近くに流れる小川に足を浸し、涼んでみたり。

低い山を狙って、ハイキングに出てみたり。

そんな遊びを、楽しむ。



少年は、小川の流れに足を浸しながら水面を見つめていた。年の頃は10歳前後。

何もせずに川を眺めているような年齢でもない。広大な自然に囲まれた少年の体は、少し頼りなさげでもある。

少年のすぐ下にある水面に少年の顔は何時まで経っても写らない。

いつまでもと流れ続けるせいで、同じ面を見せようとはしない。

水面と言うものは、そういうものなのだ。決まった形を持ってはいない。



少年が座っているあたりには、草原が広がっている。

青々とした草が風にたなびき、まるで緑色の海のようだ。

一面に白銀の雪が積もる冬とは、また違った様相を見せている。

良く見るとその草に混じり、薄桃色の小さな花が顔をのぞかせている。遅咲きのサクラソウだった。

本来は春の花だというのに、この土地では夏先に咲くのである。この地方はそれほどに寒い。

それを象徴するように、遠くの山々はまだ雪が溶けていない。おそらく、万年雪という代物だろう。

そんな様相を少年はぼんやりと眺めていると、自分の直ぐ後ろを牛車が通っていった。だが変に急いでいる。

何か事情でもあるのかと聞いてもいいものであろうが、車の上のおじさんは、絶対に声をかけてはこない。

それに、僕に好感をもってもいないだろう。

むしろ、絶対に係わり合いにならないといった心持だろう。

そう考えると、さらに顔が曇ってくる。

まぁ、別に僕が悪いだとか、異色だとかそういうことでもないわけだけれども。




子供の少ないエルナスの村では、少年というのは結構珍しい。

普通、そういう村なら見かけたらあれこれと言って来てちやほやする物だとは推測される。

だが、この村では例えそんな子供でさえまったく特別視されない。

それどころか、時と場合によって疎まれさえする。

必要以上に親しくしない。それが、この村のルール。

確かに、厳しい雪国での人付き合いは重要なもののはずであるのに、この村は違うわけだ。

原因はこの村に残る人狼伝説に起因がある。信頼を集めていた村民が突然、他人を食い殺したという話だ。

そのせいで、常にお互いに疑り深くしているというわけである。

だから少年は余計つまらない。子供だというのに友達も作ってはいけないから、余計寂しい。

だから少年の誕生日も、祝ってくれる人はいない。



牛車のおじさんは、どこかへ行ってしまった。また少年は独りになる。

エルナスは山に囲まれた村だ。人間は、大自然の中だと急に孤独を感じるらしい。

自然がたくさんあって、それらが日常的に自分達を囲むから独りだと本当に孤独を感じる。

それでも、村のルールで必要以上に他人と仲良くしてはいけない。だから皆が孤独慣れするんだと。そう思う。

少年にはまだこの孤独が苦痛だった。村のルールなんか糞食らえだ。本当にそう思う。

成長していないと言ってしまえばそこまでなのだが、年端もいかない子供には酷な環境だ。







欠伸と共に、少年が伸びをして立ち上がろうと、屈んだ体制になった。

すると、見事に前方に転がり落ちた。

バランスを失って、小川に落ちる形になる。

小川に足だけ着水して、なんとかバランスをとる。転ばなくて良かった。

もう6月だというのに川の水はまだまだ驚くほど冷たい。

「へぇー、ナイス着地だね。ふふふ」

上から間の抜けたような軽い声が響いてくる。もちろん、少年が転がり落ちたのは突き飛ばした彼女のせいだ。



少年はしばらく身辺を見渡した跡、上から響いてきた声の主を、自分を突き飛ばした主を見る。少し睨むようにして。

「危ないだろ」

むっとしながら少年は言う。

「ぼーっとしてるからそんなことされるんだよ、ふふふ。」

声の先に、ポニーテールの女の子が立っていた。

微妙にカールした癖毛、というのか。そんな感じの髪を上手く束ねている。

そして、少年とは対照的に。満面の笑み。

首から提げたカメラのフレームが光っている。

「そんなにぼけっとしてないだろ、なにすんだよ」

と、少年が言うと

「じゃ、何やってたのさ?」

間髪を入れずに彼女が切り返す

少年は、言葉に詰まった。



「考え事・・・してたんだよ!」

ほんの少しの間があった後、言う。

本当のことを言われるのは悔しい。だけれど怒りながらだと素直に言い訳が言える。それが嬉しい。

言い訳が言えることじゃなくて、怒れる相手が居ることが。

「虎ちゃんって、つよーい戦士になるんでしょぉ?

 ぼーっとしてちゃ何時まで経ってもつよーい戦士になんてなれないよね?」

勝ち誇ったように目を細めて、彼女が言う。くそっ、こいつには勝てる気がしない。本当にそう思う。

「うるさい!さっさと帰れよ!ヘンジン!」

ヘンジンと言うのは彼女の蔑称なわけだが・・・こんな切り返ししか出来ないわけか、僕は。

「うふふ、虎ちゃん、そんなこと言っていいのかなぁ・・・?ふふふーどいてあげないぞー」

ニヤニヤと笑いながら少女が言う。確かに彼女にどいてもらわないと岸に上がれない。

少し深く掘られた溝の中を小川が流れているからだ。そんなことまで彼女は計算にいれている。

どうせ、少し横からあがろうとしても彼女が動いて道をはばむだろう。

「別にどかなくたって平気だからな」

少し怒ったように睨みながら言う。こうすれば流石に相手もわかってくれるはずだ。

「ふーん・・・ふぅーん・・・」

彼女は顔に笑みを残しながら、どく気配がない。少し笑いながら見下ろしている。

もしかして、全て見透かされているんではないだろうか?

これからの展開も僕の応えも全部。


6月のエルナスの川の水は、まだまだ冷たい。





そのうち、足が冷たくて痺れてきた。でもさっき強がりを言ったのだから、撤回するわけにもいかない。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

にっちもさっちもいかない状況というのは正にこの事だ。

二人は向き合ったままどちらも譲ろうとはしない。一方的に少年が負けている気もするが。

「・・・・・・・・・・・・」

足の感覚がなくなってきた。ヤバい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

でも、こっちから折れる訳にはいかない。

なんとか堪えようとしていると、何で自分がその場に立っているのかすらわからなくなってきた。

意地をだけを頼りに、立ち続けているわけだ。

「・・・・・・っあはははは」

いきなり少女が笑い出した

「あはは・・・虎ちゃんゴメンゴメン。寒いでしょ。ホラ、上がってきなよ」

急に優しい顔になって彼女は手を伸ばしてくる。

「いいいいいいいいいよ」

寒すぎて、『いいよ』が『いいいいいいいいいよ』になった。格好悪いどころじゃないな、これじゃ。

「意地張ってないで。ホラ、捉まって。」

下を向きながら、彼女の手に捉まる。歳は彼女の方が上だから力も上だ。それが悔しい。

手を掴んだら、一気に彼女は引き上げてくれた。そして少年を抱きしめる。

「なななななにするんだよ」

まだ寒い。しっかり舌が回らない。

「ホラ、足拭いてあげるよ。それに寒くてしっかり立てないでしょ?おんぶしてってあげる」

冗談じゃない。おんぶなんて歳じゃない。

でも足が冷えて上手く立てないのは事実だし。冷えすぎて手も動かない。

仕方ない。負けだ。言うとおりにするしかない。しかないってこともないんだけれど・・・任せるのが一番いい。

少年は草の上に座り、足を投げ出す。

「あはははは、ちっちゃくてかわいー足だねー」

少年の足をタオルで拭きながら、少女が言う。

もう少年はあれこれ言うのをやめた。

何を言ってもこの状況を打開できる言葉を捜せるわけでもないし。それに、少し甘えてみたい気持ちもある・・・・・・かもしれない。







少し重くなった。僕を負ぶさった彼女はそう言った。

彼女におぶさわれるのは本当に久しぶりだった。

もう子供じゃないんだから、そんなことはないと思っていたのだけれど。

「虎ちゃん、もっと素直にならないとダメだってば」

「・・・いきなり突き飛ばすなよ・・・」

斜陽は雪国の山を茜色に染めていた。もう夜がくる。

僕等は家路を急いでいる。と言っても、彼女がおんぶしているから少し悔しい。

「あれー?虎ちゃんがつよーい戦士になるために手伝ってあげてるつもりなんだけどなー?

   でもまだまだ修行が必要だね。ふふふ」

「大きなお世話じゃん・・・大体、華は何もしてないくせに・・・」

「あはは、虎ちゃんのお世話をやらないといけませんからねー?」

「だからいらないって・・・」

「お姉さんがいないと困るんじゃないのー?このこのー」

「・・・・・・」

華は、自分より後に生まれた僕に何時だってお姉さん気取りで、いつも僕にくっついてくる。

今でも、よく考えると理由は全然わからない。それでも、彼女の温もりは心地いい。

当たり前だけれど、その気持ちは心の底にしまっている。

その事を知ってか知らいでか、すごく僕に世話を焼いてくれている。多分、僕の事を信じ込んでもいる。

もちろん、それは村のルールを無視した行為だから、彼女はヘンジンと呼ばれるようになった。

そう呼ばれるようになってから、あらゆるところで彼女は差別を受けている。

僕自身、彼女が明らかに虐められている場面に遭遇したことがあった。

そのときの僕は、黙ってそこを通り過ぎるしかできなかった。

何と声をかけていいのか、何と慰めればいいのか。わからなかった。

それを思い出す度に、僕は卑怯な人間だと思う。彼女から貰ったものは数知れないと言うのに、僕は何も出来ていやしないからだ。

それでも彼女は、笑って、笑って、僕に接してくれる。

だから

「ね、ホラ見て。一番星だよ」

いきなり彼女が前を指差して言ったので、僕の思考は急停止した。

何事かと思って前を向くと、確かに輝く星があった。

「すごい光ってる・・・」

正直に言う。

確かに、薄暗く紫色に変わっている空に、目の前の輝く星は見事に映えた。

「うん、そうだね。キレイだね」

「ねぇ・・・さっき・・・」

モゴモゴと口を動かす。言えるのか、言えないのか。ここで言うべきなのか、言わないべきなのかもわからない

それでも、言わなければならないことだということは判っているのかもしれない。幼い僕でも。

「んー?」

「・・・ヘンジンって言って・・・ゴメンね・・・」

言いいながら、涙が目の前に溢れてきたと思った。謝る時には、なんだか泣いてしまうことがよくある。

けれど、謝るのは大分上手くなってきた。素直に話せる相手が出来たからかもしれない。

「あはは、いいよいいよ」

笑って許してくれた。

「オトコノコが泣いてちゃ駄目だってば。あたしの前ならいくらでも泣いて良いけどさ。

 そんなことだと何時までも強くなんかなれないからね?」

泣きそうになっていることもばれているのだろうか。僕は慌てて話題を変えることにした。

「あの・・・この村ってさ、ヘンだよね・・・・・・だって華のこと・・・ヘンジンって言うし・・・」

実際、華のことを悪く言われるのは、僕だって我慢ならない。

「ねぇ、虎ちゃん」

彼女は、ふっと息を吐いて応えた。

「なに・・・?」

「おっきな、おっきな樹があるといいね。すごくいいね」

「樹?」

「そう、おぉっきな樹。みんながね?・・・みんなが寄りかかれるような樹があると・・・とってもいいね」

何を言っているのか、わからなかった。僕が言ったことの答えでもないし。

考えてみれば、奇妙な話だ。

例えば、世界の真ん中に大きな樹があって、そこには世界中の人が集っているとして。

大人も、子供も、病人も、悪人も、善人も。その樹の前に立っているのだ。

そんなことをぼうっと考えていると、不思議と心が安らぐ気もする。

彼女の背中にしがみつきながら、優しさに触れながら。

僕はそう、思った。




「大分暗くなってきちゃったね」

陽はもう大分前に沈んでいた。今は遠くの山の向こうがほのかに赤く染まっているだけだ。

「うん・・・ねぇ、もういいよ。自分で歩く」

僕は地面に降りて、自分で歩く。

「つまんないなー・・・もっとお姉さんに甘えてもいいのにねー」

思っていた通り、彼女は残念そうな声を出した。

「うっさい」

わざとぶっきらぼうに言って、僕はさっさと歩きだした。


僕等が田舎道を歩いて、村に帰った時にはもう夜だった。

広場のガス灯には灯りが既に燈っている。

「ふー・・・疲れたね」

「帰りたい・・・」

僕は情けなくなるほど疲れていた。

早く暖かい家の中に入りたい。いくら夏だと言っても夜は少し肌寒い。

「あ、虎ちゃん。待って」

「なに?」

不意に声をかけられて、振り向いた

「これあげるね。はっぴーばーすでぃ☆」

それだけ言って、彼女はエヘヘと笑うと、「じゃ、またね」と言って帰っていった。




僕は疲れていたし、子供だったし、薄暗かったし、なんだったのか意味はわからなかったし。

はっぴーばーすでぃ?昔、本で読んだ記憶を辿れば、誕生日を祝うことのはずだ。

両親しか僕の誕生日を知らないはずだし、彼女に教えたこともないし。何で知ってるのか正直わからなかった。

でも僕の手の中には、彼女から渡された小包が残っていたし、一生とっておきたいほど嬉しいことを言われた。

僕は、初めて誕生日を祝われた。

僕の腕と胸の間で、小包が くしゃ と音を立てた。












またね

って、素敵な言葉だと思う。

そう言っておけば、離れ離れになるのが全然怖くない。

仮に、一生の間離れている運命なのだとしても、そう言っておけばまた会える気がする。

だから、私は虎ちゃんと離れ離れになるときに、そう言って別れた。

今度の離れ離れ―――それは、今までのように今日と明日でまた会えるような離れではないのだけれど。



私はちょっと前に13歳になった。子供から脱出した。

今日の夜に旅立つと決めた。本当はもっと早く行きたかったけれど、虎ちゃんの誕生日を待った。

今までずっと祝ってあげられなかったから、それに最後だからどうしても祝ってあげたかった。

私はちょっと前に子供から脱出した。

だから、もう虎ちゃんと会うことはないんじゃないか

そう思った。



そう思いながら、走り続けた。後ろを振り返るのが怖かった。

後ろを1度でも振り返ってしまえば、虎ちゃんを見てしまう。

見てしまえば決心が揺らぐ。だから、振り返らない。

もう1度だけでいい。もう1度だけ、顔を見たい。会いたい。話がしたい。

でも、走り続けた。

それが、あたしの覚悟。あたしの決心。





エルナス村の外れにある小高い丘には、ほったて小屋がある。そこが、私の家だ。

灯りは点いていないはずだ。もう住人は私しかいないから、私以外に灯りを燈す人はいない。

ちょっと前までは、おじいちゃんがいた。でも、死んだ。

母も父もいない私を育ててくれていた、ずいぶんと年寄りの魔法使いだった。

『私が死んだら、エリニアのハインズを訪ねなさい』

おじいちゃんは、そう言って死んだ。

彼が居なくなれば私は1人になってしまう。

だから私の身を案じて、魔法使いになれるように教えてきてくれたし、魔法使いの集落、エリニアにも行けと言ってくれた。

別に私はずっとこの村にいても良いと思っていたのだけれど、おじいちゃんの遺言だから、行こうと思った。

行って、この村と違う世界を見てみたかった。おじいちゃんが見てきた世界を。



だけど、この村から出て行くには決心が必要だった。

それは、私と同じ境遇の子供。そして、私よりも年下の子供。

それが、虎ちゃんだった。



自分と同じ、お父さんもお母さんも居ない子供。

それなのに、私よりも年下の子供。

そう聞いただけで、無性に護ってあげたくなった。たとえそれが敵わないなら、見守ってあげたかった。

"可哀そう"とか、そういう気持ちじゃなかったと思う。

一緒に居たかっただけかもしれない。

だから私は、虎ちゃんを弟と呼んだ。

最初に呼んだときは目を丸くして驚いていたっけ。

その時から6年間、ずっと一緒に居た。

でも、そのせいで私だけじゃなくて虎ちゃんまで嫌な目で村中の人から見られるようになってしまった。

そうなる原因を作ったのは私なのだから、済まないことをしたと思う。

それに、私がいなくなったら虎ちゃんがこの村でどうなってしまうのか

孤児だからといってバカにされはしないだろうか、苛められはしないだろうか、自分の夢を叶えられるだろうか・・・

それが心配で、村から出て行くことにためらっていた。



今日、虎ちゃんに会ったのもそれが原因だった。

本当なら何も言わずに出て行こうと思っていたのに。

彼が少しでも引き止めてくれたら・・・いや、少しでも弱そうな素振りを見せたら・・・。

そこまで考えるのは野暮だった。

今日、彼を久しぶりにおんぶして気付いた。

多分もう、これ以上彼が大きくなったら、私は彼をおぶさえない

悲しいけど、悔しいけど、それが普通の現象なのかもしれない。

正直な話、彼の前ではいつまでも『お姉さん』で居たかった。けれど、それももう、無理なのかもしれない。

それに、彼は「自分で歩く」と言った。

だから、素直に歩かせた。

少し寂しかったけれど。

一人でも歩き出した彼の背中は、なんだか大きく見えた。

だからこそ心残りはない。





「ふぅ」

旅支度というか、夜逃げ支度と言うべきか。

小さな掘っ立て小屋の中にあったものは小一時間ですべて片付いてしまった。

改めてがらんどうになった小屋の中を見渡すと、寂しいものだと思う。

あれだけ細々と物が、思い出が詰め込んであった小屋だと言うのに、今は何もない。

自分と共に大きくなっていった衣服も、おじいさんが好きだった食器も、今は必要がないものだ。だから全て壊してしまった。

仮にこれから一度でもこの場所に帰ってきたとしても、同じ姿を留めてはいないだろう。それで構わない。

全て壊れてしまえばいい。思い出など残すこともない。

ましてや、自分の記憶の中に残るこの場所の風景は、既に無いのだから。



外に出てから、ふと振り返りもう一度だけ住んでいた小屋を見る。

月明かりに照らし出された小屋は酷くおぼろげに見えた。

『もうこの場所は自分とは関係ない』

そう思ってしまってから、この小屋で過ごした数年間の思い出は全て夕闇の中に散ってしまったようだ。

そう思えてしまうことが哀しいはずだというのに、不思議と落ち着いている。そんな自分に嫌気も差す。



既に日が沈んで久しい。時刻はもうすぐ明日を迎えるかもしれない。

流石にそろそろ出て行かなければ。しかし、小屋を見ているだけでなぜかそこから動きたくない衝動に駆られている。

今更になって決心が揺るいだのだろうか?

今更やめるというんだろうか?

思えば私は全てが中途半端だ。

絵描きになりたいと言って始めた絵画も。育て主に教わった魔法も。弟の成長を見守ることですら――。

そこまで考えたときに、何か糸のようなものが切れたような気がした。

ふっと息を抜いて。もう一度前を見る。もう迷いはない。

なんだ、結局私は彼に助けられてばかりだ。



夜の澄んだ空気は肺の中で少し大袈裟に暴れまわった。

この空気が温まるころ、私はどこで何をしているだろうか――



体は、前を向いた。

足は、動き出した。

心の詰まりは、ない。

知らない場所へ、今私は歩いていく。

どこで何が待っているだろうか。どこで誰が待っているだろうか。

どこからか、誰かが私を追いかけてきてくれるだろうか。



オルビスの船着場へ。

残していったものは余りにも儚い。この先の道は霧のようにおぼろげだ。

それでも知らない場所へ。新しい場所へ。足は動く。

これが門出というもの――そう思いながら、船に乗った。


























行き先を告げずに行ったのは、多分追いかけられない所に行ってしまうからだ。



悲しい。というわけではなかったと思う。

苛立ったわけでもない。

悔しかった?それも違うと思う。

泣きはしなかったけれど。寂しくはなったのだろうか。泣きたくはなったのだろうか。それもわからない。

置いて行かれたことが、気に食わなかったわけでもない。

よくわからない。自分の気持ちがわからなかった。



何故?



なんで、まるで忘れてしまったかのように暮らしてこれたのだろうか。彼女を。









村の大人達を殴りたくなったことが何度もある。

彼女のことを最初から知らなかったかのように振舞う奴等に、腹はたった。

けれどその気持ちは、どこへ充てればいいのか――

自分も忘れようとしていたくせに、他人にしか目はいかない。

きっとあの頃。僕がもう一人いたら僕を殴っている。





夏が来て、秋があっという間に過ぎ、長い冬を越えて、やっと春がきた。

その繰り返しが幾度か続き、また夏がきて、それも足早に過ぎ去ろうとしている。

雲の動きが早く。風は絶え間なく吹いて、緑と、少し控えめな桃色をした草原を駆け抜けていく。

少年が溝を流れる川の背にして立っていた。

吹き抜けてくる風を正面から受けて、うなだれて目を閉じている。

手には背丈より少し高い、布に包まれた棒を手にしている。

遠い山から吹き抜けてくる風は、タイガの森林を潜り抜け、少年の居る草原に当たっていく。

不意に、突風が山を駆け下り、草原を駆け抜けていく――

それを感じ取ったのか、少年は目を薄っすらと開けると、正面を睨んだ。

その瞬間。先ほどまでの風が嘘のように吹き止んでいた。後には微風に揺れる草花のみが残る。

少年は顔を上げ、少し微笑んだ。



気持ちのいい風だった。散らしてしまうのは少し惜しかっただろうか?

ここに来るのは久しぶりだったのだから、もう少し風を感じていてもよかっただろうか。

そう考えると、実に惜しく感じられた。悪い癖だ。

過ぎ去ったものに後腐れを感じるのはあの頃とちっとも変わっていない。

そう思うと自然と笑みがこぼれてしまう。あの頃から自分は成長したのかどうかわからないなんて、変な話だ。

あの頃から比べると、体はたくましく成長したし、心も強くなった。

数年前に来訪した戦士の頭取から教えてもらった技も向上して。たしかに自分は成長しているのだ。

そんじょそこらの奴等に負ける気はしない。

けれど、それもあの贈り物がなければ成し得ない境地だったと、今でも思っている。

当時の自分はあまりにも弱かった。出て行った人を追いかける力すらなかったのだから。









いきなり目の前から消えた姉。そのことを受け止めて自分の気持ちの整理がつくまでは抜け殻のようだった。

夜に別れて、朝になったらもう居なくなっていた

なんて、9歳の子供には辛すぎる現実だったのかもしれない。本当に泣きたいくらいだった。

泣こうとして、あの人の言ったことを思い出した。だから、堪えた。

あの人が居る前でない限り、二度と泣かないと決めた。それから一度も泣いたことはない。



あの人が居なくなってから、9歳の子供はどうしたらいいのかわからなくなってそこら中を歩いて回った。

そうしていれば、あの人がどこかで見つけてくれるんじゃないか。そう思っていた。

もちろんそんな事はなかった。歩くだけ歩いて、疲れて家に帰った。

布団の中で何度も泣きそうになりながら、堪えた。何度も、何度も溢れてくる涙を堪えた。



そうして探すようになってからしばらく経って、心も体もグラグラと揺らいだ。

あと一押しされれば倒れてしまうくらいまで傷つき、痩せこけた。

そうなっても、夜に布団に入ったときは涙を堪えていたし、外を探し回っていた。

諦めなければいけないのに、諦めるのは嫌だった。

だから、意地でもなんでも探し回った。涙は決して流さなかった。

体は滅茶苦茶になった。足の豆は潰れ、膿と血で靴が染まった。

その日も、同じように探して、探してようやく寝場所までたどり着いた。

『探しても探しても、もうあの人は居ないんじゃないか。涙を堪えても、無駄じゃないか。強くなんか、ならなくても――』

そんな考えが頭の中をよぎった。

9歳の子供は、12歳の子供になっていた。卑怯な大人の生き方も、少しずつ理解していた。

挫折。

体が震えた。

目には涙が溜まった。

傷ついた足は、動かないほど疲弊していた。そもそも、動く体力は残っていなかった。

とうとう、少年は力を失ったかのように。支えを失ったかのように。

不意に、月の明かりが部屋を照らした。

そのとき、『それ』を見た。

テーブルの上に置かれた、小包。それが、月明かりに照らし出されていた。



『これ、あげるね』



『はっぴーばすでぃ』



忘れていた顔が、出てきたような気がした。



無我夢中で包みを開けた。



これは、何なのだろうか。

あの人の、くれたものだ。

初めての、プレゼントだ。



涙は完全に引っ込んでいた。動くはずのない体は震えながら包みを開いていた。



中身は、小さなアルバムだった。

平凡な写真と、平凡な一言が詰まった、平凡なノート。

そういえばあの人は、いつもカメラを首から提げていた・・・

よく考えると、最後のあの日は持っていなかっただろうか。

そんな、どうでもいいことが頭を過ぎる。どうでもいいことのはずなのに、今はそれが嬉しい。

写真はほとんど全てが少年のものだった。

あきれるほど大量に撮られている写真の中で、少年は笑い続けている。



あぁ、バカだよこいつ

こんなに笑っちゃってさ

これからお前、どんなことがおきるのかわかってんのかよ

どれだけ苦しむかわかってんのかよ

バカだよこいつ

そうさ、俺はバカさ

そういえばずっとずっと前から笑ってないな

バカだよな

あの人が「泣くな」って言ったのに

「笑っていろ」って言ったのにさ



気が付けば、笑いながら泣いていた。

ぐしゃぐしゃになった顔は、それでも冊子を見続けている。

なんだ、結局。バカじゃないか。

泣いてるのか、笑ってるのか、嬉しいのか、悲しいのか。それもわからない。

嬉しいんだな、やっぱり



不思議なものだ、今まであんなに心が張り裂けそうだったのに

こんな普通のノートを見ただけで笑みがこぼれるほど暖かい気分になる。

あの人は、本当に・・・・・・いや、そんなことを言うのは意味もないな。

そう思い直して、もう一度冊子に目を落とす。本当に、ページの中は笑顔の少年ばかりだ。

最後のページになったとき、思わずはっとした。

最後のページには、一枚だけ少女がはにかみながら微笑んでいる写真があった。

写真の下には、鉛筆で『私の弟へ捧げる』と、小さく書いてあり、その横にはサインが添えられている。

「泣いたら駄目。虎ちゃんはずっと笑うべきなんだよ。辛いことも、楽しいことも、全部ひっくるめてね」

不意に、あの人が言っていた言葉を思い出した。

やっと、意味がわかった。そういう気もする。



窓の外を見やると、遠くの山のまた向こうから、薄紫色の朝が顔を覗かせようとしている。

空には、取り残されたように光る、星。そういえば、いつか綺麗な一番星を一緒に見た。あれは何時の日のことだっただろうか・・・

不思議な気分だ。今の今まで、そんなことは思い出しもしなかったのに。

今は思い出が湧き出してくる。写真を見ただけだというのに。

部屋の中が大分明るくなってきたので、立ち上がって窓のほうへ歩きながら、考える。

きっと今日は、楽しい日になる。いや、しなければならない。

最初に浮かんできたのは何の脈絡もない考えだった。馬鹿らしい。いや、俺らしいのかもしれない。

そんなことを思いながら、窓枠に両腕を載せる。

風が気持ちいい。まだ村中誰も起きていないから、広場は閑散としている。それが、きっと心苦しい。

遥か遠く、万年雪の積もる場所から吹いてきた風が、レースのカーテンを揺らす。

そのお陰で、涙は見えなくなった。










そんなわけで、彼女が居なくなったのはもう、7年前の話だ。

そう考えると、一緒に居た時間より、離れ離れの時間のほうが長い。

それでも、思い出を持っていられるのは、多分俺が変わったからだ。



なに、急ぐことはないからもう少しここに居よう。

16歳の少年はそう決めると、草原に寝転がった。

空を眺めていると、風がどんなに強く吹いているかよくわかる

今日は少しご機嫌斜め、急ぎ足。といったところだろうか。

そういえば、今年の夏は入道雲を見ていないような気もする。そんなことはどうでもいいのだけれど。

どうでもいいことを考える癖も直ってない。ま、それはどうでもいいか。

相変わらず、少し冷たい風が少年の頬を撫でる。

同時に運んできた草のいい匂いが通り過ぎていく。



もうすぐ、今年の夏は終わる。

秋が来れば、雪が降るのはすぐだ。

やっぱり、そうさ。遅くてもいいじゃないか。もっとこの場所で寝転んでいよう。

夏が来れば、旅立つという心持だったが、もうそれは延びている。

まぁ、いいさ。と少年は感じた。急がなくてもいいんだとうことに気付いたのは、今日からだ。

雪が降るころに旅立とう とも思った。



確かに、水面は同じものを映すことはない。

少しずつ変わりつつ、また新しい物を映し始める。

真後ろにある川のせせらぎを聞きながら。

この川にもし突き落とされるなら、それでもいいな と少年は一瞬考えて、微笑んだ。

























あとがき






文字数が横幅と合ってないのは、愛嬌です。許して。

どっかで本公開するかもしれないときは直す可能性があるから



よければコメントでもお願いします。辛口でもなんでもいいので。


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コメント
えっと・・・

普通に読みふけったΣ(´□`ll)
飯前なのにすごい集中して読んじゃったよ!!
っていうかせーちゃんすげえええええええええええ

っていうか虎ちゃぁぁぁぁん!!!

テンション上がっちゃいます(*ノ-;*)
本公開とか他の物語とか
めっちゃ楽しみになりました!!
頑張ってな!
URL | 虎 #-
2006-04-26 19(Wed) [編集]

このコメントは管理人のみ閲覧できます
| #
2006-04-26 21(Wed) [編集]

今忙しくてササッと読んだだけなんだけど・・・

髭の出番は?(照)

きっとラスボスなんだ

後でゆっくり読ませていただきます・・・

URL | 髭 #gBiuX0yY
2006-04-26 23(Wed) [編集]

女の子がわかんないよ・・・( p_q)
七樹に虎ちゃんより年上の人いたっけ??

なんて・・・
たしか資料集めのときにあんなこと言ってたし、名前から察するにあの女の子は・・・
でもあんな性格じゃないと思うんだけどっ(笑

てかっ
せーちゃの文字表現ってすごいよね。
あくまで自分で作ったものなのに、その話に出てくる人間とせーちゃんは明らかに違う人で。
やっぱり登場人物と自分を重ねてしまう場面ってあると思うんだけど
それが全然感じられないというか・・・

何よりっ
一番すごいと思ったのは景色の表現。
エルナスの夏なんて見たことも想像したこともないのにさぁ
ふわーっと浮かんでくるんだよね。
草原、小川、"華"の家から田舎道まで浮かんでくるさあ。
文字を読んで景色を浮かべるうえで大事なのは読み手の想像力よりも書き手の表現力かもって思っちゃったさぁ

続き楽しみにしてるね☆
URL | 卯の花 #jdgj8OxM
2006-04-27 09(Thu) [編集]

虎に萌えた。

時間を忘れて読み耽ったよ・・・
早く続きが読みたい!
そしてむしろここに俺の出番がないほうが物語が美しく終わる気がしてならないっ!
全編公開、楽しみにしてるよー。
URL | あぬ #HfMzn2gY
2006-04-27 23(Thu) [編集]

ちょこっと目を通して、時間のあるときに読もうなんて思っていたのに・・・全て読んでしまったよ!

すっごい素敵!情景が目に浮かぶよ!
途中で泣いたり笑ったりして読んだし…


続きすっごい楽しみにしてるよ!
せーとりあえずここまでお疲れ様っ

全編でたら文庫本にしてうってください!
URL | 愛射 #6pSY8lIs
2006-04-30 15(Sun) [編集]

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2006-05-08 08(Mon) [編集]

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